集会 生まれようとしている命を選別しないで

「出生前診断とゲノム編集―命のはじまりへの介入反対―」2019年3月17日  京都市北いきいき市民活動センター

パネリスト発言文章

岡田健司


1. 生命倫理に対する基本的態度

  ゲノム編集の技術で治療目的でない遺伝的改変をおこなう道がひらかれ、ヒトの出生が意図的に操作されるだけでなく、その代償として有効な治療(構成耐性遺伝子のせいで)への道を断つことになる可能性を秘めている点で非常に問題です。

  それでこの問題を考えるときに、見過ごせないことが起こっていることを思い返しました。自民党の国会議員杉田水脈氏がLGBTの方々に対する中傷発言をおこない、自民党総裁である安倍氏は「まだ若いから」という理由で不問に済ませました。その論調は「生産性」がないので「権利擁護」に値しないというイデオロギーやナショナリズムによって、個人のアイデンティティを攻撃するというものでしたが、LGBTの方々だけでなく、女性や障害を持つ人たちを深く傷つけました。その発言を掲載した雑誌は猛批判によって廃刊に追い込まれましたが、国会議員という立場にありながら、差別と偏見を煽ることを許してはいけません。

  また旧優生保護法による強制不妊手術の被害者救済に向けた法案が作成されようとしています。前文で、多くの被害者が「生殖を不能とする手術や放射線の照射を強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、我々は、素直に反省し、深くおわびする」とされています。しかしそこは、反省やおわびではなく謝罪であり、何についての反省とおわびなのかを歴史的事実に沿って記載されることが大切です。被害者の人権を回復するためにも国による賠償がなされ、その賠償は被害者認定も含め広範に行われるべきです。

  私は、「生産性」があるかないかで人の価値をはかることや、特定の疾患や障害を「不良」とみなし性と生殖に関する健康と権利を奪ったことは、いまを生きる人にとっては不幸なことだと思います。この国が差別と偏見を許すことなく、誤った政策を正し謝罪と賠償を行い、二度と繰り返さないことを誓うことなくして、出生前診断、ゲノム編集による遺伝的改変への道を追認することは、いまを生きる人の感情を逆なですることになるのではないでしょうか?

  国によるゲノム編集技術への応用承認をやめさせ、厳格な管理と規制を行うべきです。全ての人の人格と個性が大切にされ、性と生殖に関する健康と権利が、偏り過ぎずに行使されるよう、教育・労働・私的生活さまざまな部面で、人間の全面的発達が保障できる社会を作ることを一致点として連帯し合いたいと思います。


2. 国の追認はなぜ起こっているのか?- 報告、その背景を探る -

(1)内閣の重要政策の企画立案は「未来投資会議」「経済社会科学技術イノベーション活性化委員会」「総合科学技術・イノベーション会議」

・日銀による株価吊り上げ、8%増税以降消費低迷、実質賃金上がらず、雇用増は高齢者と学生、大企業、資産家には減税で儲けに儲け、総破綻

・打開策が「イノベーション」であり、バイオテクノロジー(生物工学)は取り組み強化すべき主要分野となって、ゲノム編集技術はあらわれた

・研究開発予算は「戦略的イノベーション想像プログラム(SIP)」「革新的研究開発推進プログラム(impact・first)」に振り分ける

・ゲノム編集は社会実装に向けた戦略的研究であり、ハイリスク・ハイインパクトあるものだから親和性がある


(2)研究機関としての大学

・国の成長戦略に重要機関として、「総合科学技術・イノベーション会議」の下に統合イノベーション戦略推進会議が大学改革の司令塔

・2004年の国立大学法人化で、国が教育研究を統制し介入できる仕組みに変えた

・国立大学の運営交付金は2019年度予算1兆971億円、2004年比1400億円減

・2016年から世界卓越型・全国教育型・地域貢献型、3つの大学機能別群に分けて運営費交付金を傾斜配分、各大学に配分した交付金を拠出させて「機能強化」「外部資金獲得」「若手研究者比率」に応じて傾斜をつけた再配分は1000億ある

・研究者個人、研究機関がおこなう特定の目的に使う、いわゆる科研費などの競争的資金

・それらの問題は「大学の危機を乗り越え、明日を拓くフォーラム」などの声明を見てもわかる

・国立大学協会会長は失敗


(3)経済界、大企業、ベンチャー(研究開発税制)

・安倍内閣の成長戦略、産学官連携は経団連の筋書きどおり

・大企業大儲けの背景には法人税減税、研究開発減税などの優遇税制

・ゲノム編集の産業化には大学初のベンチャー企業などが一役(株式会社セツロテック)

・ベンチャー企業などにも研究開発税制(特別試験研究費税額控除)

・産学のつなぎ役も出てきた(日本ゲノム編集学会、広島大学山本卓)

・ゲノム編集技術(ZFN・TALEN・CRISPR-Cas9)、商業利用に使用料が必要、それを避けるために研究開発が進む

・cas9も使って応用特許の技術開発