全国自立生活センター協議会(JIL) 九州・沖縄ブロック研修会 講演記録2018年3月27日  北九州市総合保健福祉センター

日本の自立生活センターがおこなう介助派遣事業への問題提起

岡田健司


  それでは、今日のテーマである「日本の自立生活センターがおこなう介助派遣事業への問題提起」をしてみたいと思います。それは、日本の介助制度の仕組みのまま自立生活センターが介助派遣を行なうことは、私たちのかかげる当事者主体の介助派遣にはならない、という問題提起です。


・権利保障として派遣する意識、生活保障として利用する意識の一致は難しい?

  まず日本の介助制度の仕組みをおさらいしておきましょう。

  公的介助制度は国によって間接給付されています。給付とは介護費のことで、国は介護費の保障によって事業者にサービス提供させて、利用者にサービスを選ばせるという仕組みになっています。 与えるもの(措置)から選ぶもの(契約)へと変化してきた日本の介助制度ですが、あくまでも利用者としてサービスの受け手であることに変わりはありません。あらかじめ決まったサービスメニューの中から選択しサービスの提供を受ける、これが利用者本位のサービスであると言われるゆえんです。 私たちCILは消費者管理の考え方のもと、障害者が介助制度を利用するときサービスの受け手ではなく担い手として、利用者本位のサービスではなく当事者主体・主権のサービスであるべきだと主張しています。しかし、いまだそれは実現できていません。そのことについてみなさんお考えになったことありますでしょうか?


・事業所のサービス提供が利用者の生活様式の義務化を招いていたとしたら?

障害者権利条約19条bで、障害者が自立(自律)生活と地域社会へのインクルージョンの機会を失わないために、パーソナルアシスタンス(以下PA)を含む地域社会支援サービスを使っていくようにする、と規定しています。PAはスウェーデン(1983-)、イギリスのコミュニティケア法(1990-)、カナダ・オンタリオ州(1994-)等にみられるような、当事者主体・主権のサービスとして自立や自己決定を後押し、それを社会的にも支える介助制度の仕組み、手段として定着してきました。アメリカは介護を医療の一部として考えており医療保険制度のもと提供されます(メディケア1965-)。介助制度としてのPAは@サービスは障害者によって管理されるA介助者は共有されない一対一の関係にもとづくBパーソナルアシスタンスの自己管理、によって行われます。これが当事者主体・主権にもとづく介助制度の前提条件です。


  ここで質問です。

  (1)いつ・どこで・どのようにサービスを使うか、セルフマネジメントの根幹でもあるサービスを本人が管理している/するようにしているセンターはどのぐらいありますか?

  (2)本人が募集し選んだ介助者は本人によって教育・管理されていて、けっして本人の許可なく介助者を共有しないセンターはどのぐらいありますか?

  (3)本人が介助者の雇用管理に対する相応の責任を持っているセンターはどのぐらいありますか?

  (4)たとえ本人が部分的な雇用管理しかできなくても雇用管理の意思決定の中心に位置付けられ尊重されているセンターはどのくらいありますか?


  集計したアンケートを振り返りましょう。

  利用者に介助派遣をはじめたきっかけは利用者の自立生活のためでした。その生活は本人の自己選択・自己決定・自己責任で成りたつはずでした。利用者に派遣することで見出してきた意義は本人がエンパワメントされると思ったからです。利用者本人のエンパワメントはかならず当事者主体の運動の担い手になり得るとされてきました。しかし多くのセンターで利用者に自己選択・自己決定・自己責任の考えが受け入れらず、介助者の使い方・関係づくり等の雇用管理に関する相応の責任を持ってくれません。ましてや当事者主体の運動の担い手にもなれない。

  繰り返しますが、これは日本の介助制度の仕組みが利用者本位のサービスだからです。私たちに必要なサービスはすでに決まったメニューのなかでしか選べない。サービスを提供する事業者はみずからの都合でメニューの取捨選択を行っている。サービスを受けられるかどうかは事業者全体のニーズに合わせるしかなくつねにサービスの受け手に立たされている。サービスを提供する介助者に対する規制・規則が存在し利用者が管理できない仕組みになっている。日本の介助制度の仕組み、その考え方に馴染んだ人がほとんどです。だから障害者のほとんどが利用者なのです。


・幸福追求の擁護者として

  ここである言葉を紹介したいと思います。

  当事者主体が生かされるようにするためには「自立」「自己決定」の両概念が少なくとも「自分の求めることを実現できるように環境をコントロールすることであり、根源的にその人が自分自身の主人となること」ができるような法制度でなければならない(河東田、河野)。

  私たちがかかげる当事者主体の考え方や自立や自己決定の理念は、CILの介助派遣の中では、自らがサービスの管理をして、自らが必要な専属介助者を雇用して、自らがサービス提供の意思決定の中心に位置付けられているという実践がなければ実現できないのです。

  私は全国の自立生活センターのみなさんにあらためて実現してもらいたいことがあります。活動をする当事者はセルフケアマネジメントを徹底することです。当事者の部分的なセルフケアマネジメントに対して、残されたマネジメントのどこに支援が欲しいか、どんな支援をしてもらいたいかを明確にすることです。日本の介助制度の外側にいた障害者の支援をはじめる前に、利用者本位のサービスから当事者主体・主権のサービス、具体的にはパーソナルアシスタンス制度に変革していく運動に取り組むことです。

  当事者主体・主権のサービス実践者こそが、当事者主体・主権のサービス運動を展開できます。そうすれば、アンケートに見た避けがたい問題は解消され、日本の介助制度の外側にいた障害者の支援をはじめるにあたって、CILのソーシャルワーク力を高め、ソーシャルワーカーとして社会資源の開発改善を起こし社会を変えていく原動力にすることができるのです。

  私たちは事業者の集団ではなく運動団体の集団です。日本の介助制度の問題がCILの中に見出せる限り根源的に制度変革をしていくことがサービスの担い手である、私たちがすべきことです。