2022年6月21日に常任委員会で採択された、第2回総会議案 - 総会決議案(岡田委員長が提案)はつぎのとおりです。


自立生活センターアークスペクトラム第2回総会決議案

2022年6月21日

常任委員会


  未曾有の感染症に見舞われ、度重なる蔓延の波に晒されもしたが、焦眉であったはずの検査、保健所、医療提供体制は拡充されたのだろうか。科学の力によって見えざる感染症の恐怖は影を潜め、困難はあったが生活様式の変化に耐え、未然に備えた生活で繋いでいる。私たちが晒された真の恐怖は命に対する社会的基盤の脆弱さだった。

  襲われている恐怖はそれだけではない。紛争の平和的解決をめざした戦後の国際秩序が破られ、無辜の人々が築きあげた生活が破壊されている。このことも重なり、紛争や迫害から逃れるために居住地を離れざるを得なくなった避難民の数は全世界で1億人を超えた。感染症危機後の急速に回復する景気だったが、戦争による食料・エネルギー価格の高騰も合わさって家計への打撃となっている。物価高騰は低所得者層で消費税5%相当分もの重圧であるが、そもそも、2012年から続く異次元の金融緩和による急激な円安で、海外との金利差の影響を受け、輸入物価を押し上げて食料・エネルギー価格の高騰を招いている。

  私たちは、社会的基盤の脆弱さ、生活の破壊と重圧に対して恐怖を抱きつも事実から探究をはじめ問題の本質を見きわめて解決のために力を合わせて立ち向かっていかなければならない。障害分野における情勢と、政治・経済分野における諸課題はまったく無縁のものではない。社会は経済諸関係を土台に一定の社会諸意識が対応し、社会的、政治的、精神的な生活過程全般を制約しているからである。私たちは、障害者に対する差別や抑圧を否定することこそ人間の尊厳と多様性を擁護する態度表明であることをあらたに確信する。



1. 障害分野における情勢

【虐待】

  2020年度全国の自治体などが確認した障害者虐待は前年度比で64件増の2891件で過去最多だった。自治体などが確認した加害者別で見ると家族らが1768件(前年度比113件増)、施設職員らが632件(同85件増)、雇用主らが401件(同134件減)。家族や施設職員が加害者となった事例では、暴行や拘束などの身体的虐待が最も多く、暴言をはじめとした心理的虐待が続いた。

  障害者の暮らしは家族・施設・福祉的就労にケアが偏り、社会的資源に乏しいため生活様式が固定化しており実質的な義務化を招いている。


【応益負担】

  2008年から2009年にかけ、全国の障害者71名がサービス利用量に応じて自己負担を求める「応益負担」は、国民の生存権を保障した憲法に違反するなどととして、国や区市町村を相手にたたかった。国は2010年1月7日、訴訟団との基本合意にもとづき、同年4月から低所得世帯の利用料負担をなくしはしたが、基本合意が収入認定の際、障害児者本人の収入だけで認定するよう求めているにもかかわらず、いまだに世帯で認定している。そのため配偶者に収入がある場合や障害児には利用料負担が発生している。

  そもそも障害は自己責任で克服すべきという考え方によって導入された応益負担原則は速やかに廃止し、世帯収入にかかわらず本人所得のみの収入認定にすることが求められている。


【65歳問題】

  天海訴訟は、2015年11月介護保険申請をしなかったとして、障害福祉サービスの継続申請を認めず支給を全面的に打ち切った千葉市などを相手取った裁判である。昨年5月、千葉地裁は全面敗訴の不当判決を出し、現在審理は高裁に移っている。

  障害者が65歳になった時点でこれまで利用してきた障害福祉制度から介護保険が優先適用される原則は、介護保険で従来のサービス水準に満たない場合は適用されないが、国はいまだに優先原則を取り下げていないため、自治体の画一的な運用が起きる。障害者が障害福祉制度と介護保険制度を選択できるようにすることが求められている。


【強制不妊】

  旧優生保護法(1948年〜96年)下で不妊手術を強制された障害者が国に損害賠償を求めた訴訟で二つの高裁判決(大阪・東京)は、国に賠償を命じた。これまでの間、被害者に一律320万を支給する一時金支給法が2019年4月に施行されているが、不妊手術を受けた2万5千人のうち、亡くなっている被害者も少なくないとはいえ、請求数は1100件、認定は960件程度にとどまっている。

  国は高裁判決で示された賠償額に見合うよう不十分な一時金の見直しをすすめ、請求数の実態からすれば「除斥期間」を主張し訴訟継続をする姿勢を改め、国と自治体がともに強制不妊手術に関する被害実態の調査に取り組み、個別に通知し、被害者が賠償を求めることができるよう寄り添った救済責任を果たすことが求められている。

 

【介護保障】

  常時介護を必要としている障害者を対象に、アシスタントが日常生活行為全般、外出時の移動、見守りなどを総合的に行う重度訪問介護がある。現状では重度訪問介護の利用は1万1千人。全国約1700市町村のうち、いまだに9割近くで1日24時間の制度実績がない。都道府県・区市町村の財政負担を軽減する国の予算保障が求められている。

 

【学習する権利の保障】

  障害児と他の児童がとともに学び育ち合うことは権利である。「子どもの権利条約」4つの原則を実現する環境づくりは急務である。義務教育段階において、就学前診断による子ども一人ひとりのケアの必要度を特別支援教育の対象の概念として画一的に用いないことや、子どもの発達に不安や戸惑いのある家族、ひとり親家庭、共働き、貧困、親自身がどう育ってきたか、夫婦関係などを捉えた親へのサポートも重要になっている。教育予算全体の底上げで、教員数の増員や少人数学級を実現し、ケアの必要度に応じて学びの場における児童の介護を保障する、教育環境の充実と整備が求められている。

 

【年金制度・生活保護】

  障害年金は所得保障であり、生活保護は最低限度の生活保障であるが、これら支給額は物価に見合う生活水準に引き上げる必要がある。2021年の生活保護申請件数は前年度比0.8%増の22万9878件(速報値)で、前年度を2年連続で上回った。障害者世帯が厳しい生活を強いられている一番の原因は、障害年金の支給水準の低さである。注意が必要なのは、生活保護を利用する障害者は、「障害者世帯」以外の世帯にもいるという点では、上がらない賃金や特異な物価上昇を算定方法にした年金や生活保護の削減は困窮する世帯に多重苦をもたらしている。

  生活できる年金にすると同時に、働く場の保障も合わせて取り組み、福祉的就労にも最低賃金を保障し、一般雇用での最低賃金法の「減額特例(障害者除外規定)」を廃止し、国や自治体、民間企業の法定雇用率の厳守の徹底と引き上げが求められている。



2. 障害分野における情勢と結びついた諸課題

【戦争か平和か】

- いま世界で起こる戦争、紛争、暴力、迫害に対して政治による外交努力で平和的に解決をめざすことを求めよう。

- 大軍拡につながる軍事費の増額に反対しよう。


【貧困と格差】

- 大企業や富裕層はもうけに応じた負担をすることを求めよう。

- 過去9年間で実質賃金を低く抑え減らし続けた22万円分はすべての労働者に還元することと同時に、社会的労働に相応しい最低賃金の実現を求めよう。

- 収入の少ない人ほど負担の大きくなる逆進課税の消費税はただちに減税し将来的に廃止することを求めよう。

- 長時間労働をなくし、労働者一人ひとりの自由な時間を保障し、家族や子どもがいれば互いに養い育てあえる働き方に転換することを求めよう。

- 子育て・教育のための予算の水準(対GDP比)をOECD諸国平均にまで上げて、とりわけ義務教育・高等教育にかかる費用を軽減し無償化を実現することを求めよう。


【ジェンダー平等】

- 性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)は女性の大切な権利です。尊厳あるものとしての理解を深めよう。

- 家事・育児・介護その他のあらゆるケアを女性に押し付ける性的搾取に反対しよう。

- 女性は男性と対等で、平等な労働条件(賃金・昇進・職務職責など)のもとで働くことできるように求めよう。

- LGBTなど性的マイノリティの尊厳と多様性を妨げている生活環境、人的環境、社会偏見、法制度、社会サービス等のあらゆる面で是正を求めよう。


【気候危機】

- もうけばかりを優先する生産活動による環境破壊に反対しよう。

- 自然と人体に有害な石炭火力と原発はベースロード電源としないことを求めよう。

- 誰もが取り組みやすくだれもとり残さない、再エネ・省エネの普及をすみやかに実施することを求めよう。



3. この1年間の取り組みの特徴点

  自立生活センターアークスペクトラムは、消費者主導の政策として、パーソナルアシスタンス・ダイレクトペイメントの運用設計および具体化を独自に追求している。これは、団体の主宰である「社会資源の改善開発を実践し入所を選ばないプロジェクト」により展開されてきた。パーソナルアシスタンス・ダイレクトペイメントの運用設計および具体化の過程で、アシスタント(ヘルパー、介助者、介護者などともいう)の共有を行わず一対一の関係性に基づいたサービス利用を原則とする決定(2019年)、利用者がどの程度管理するかを自由に選択でき管理可能な範囲でマネジメントがおこなえるようセルフマネジメントの範囲・内容・方法を決定(2020年)、民主的な組織運営の原則に立脚する規約改定を行った上で団体の基礎組織は支部であることを規定し、誰によって・どのように・いつ・どこで・どのようにサービス提供されるのかを決めることを可能とする利用者主導の体制づくりの決定(2021年)に結実した。

  この試みは、現在の日本における障害福祉サービスのなかでパーソナルアシスタンス・ダイレクトペイメントの理論を具体化し実践し直すものである。

  2022年は、法人で受領する介護報酬を利用者(支部)ごとで個別化し、利用者のニーズや生活環境あるいはアシスタントの雇用や育成に適宜給付し、介護報酬の過不足(ニーズアセスメント) を把握した上で要求活動に生かすことができるよう、個別化給付の運用設計および具体化に取り組んでいる。



4. 今後1年間の取り組みと課題

・マネジメント代行者の育成プログラムの具体化と実践。

・パーソナルアシスタンス利用者と権限委譲されたマネジメント代行者が出席し、セルフマネジメントについての実践交流・意見交換。

・支部活動における日常的な活動からうまれる経験、教訓、叡智を結集し支部活動の強化をめざす実践交流・意見交換。



5. 一人ひとりが権利擁護者として活動できる団体づくり

・規約の実践で民主的運営の原則を確立する。

・消費者主導の政策を具体化し実践する。

・消費者主導の政策をあたらしい言葉でつたえる行動をおこす。