全国自立生活センター協議会(JIL) 全国セミナー2019年12月18日  アクロス福岡

ブリュッセル・ストックホルム訪問/懇談 報告〜ストックホルムを中心として〜

岡田健司


1. 訪問/懇談の目的

(1) 日本の障害福祉サービスは利用者本位のサービスと呼ばれています。障害者にとって良いはずだ、と第三者が決めたサービスは本質的に問題だとみています。

(2) ただ、私たちは、利用者本位のサービスを提供をする事業者でもあるわけで、そのことに批判的検討を加えるか加えないかに関わらず、本質的な問題を含んだサービス提供と、障害者一人ひとりの自己選択・自己決定の保障とのあいだに矛盾が生まれ、事業者と利用者の衝突・対立・軋轢を顕在化させるのではないかと考えています。

(3) 当事者主権/主体を基礎とするパーソナルアシスタンス制度を堅持しようとする欧州で、この問題意識を持っていって、本質的な問題の根底にある真理を探究しなければいけませんでした。


2. 懇談した人・組織

(4) ストックホルムでは、問題意識を広く伝えたかった人としてアドルフ・ラツカさんがいます。1983年にストックホルム自立生活共同組合(STIL)を立ち上げ、1994年にパーソナルアシスタンス制度をLSSという法律に明記させました。

(5) スウェーデンでは1999年に入所施設が解体されました。パーソナルアシスタンス制度がなければ解体はできません。なぜなら解体計画の最終局面で最重度の知的・あるいは重心障害を持つ人たちが残りがちです。パーソナルアシスタンス制度で意思決定はどのように行われるのか、そのことを重症心身障害児・者と親の会(JAG)に行って聞いてみました。

(6) ラツカさんが立ち上げたSTILは世代交代を繰り返しながら健在です。権利擁護組織でありながらサービスプロバイダーでもあり、私たちと組織形態に類似の点があります。しかしパーソナルアシスタント供給事業体としてその性格に違いがあり、その違いは当事者間の関係にどのような影響を与えるかについて確認をしてきました。


3. 懇談内容より

(7) パーソナルアシスタンス制度は、各国の障害者の基本権として保障されるものです。障害者権利条約19条、一般的意見5号に規定されました。自立生活運動での自立の概念には自己選択・自己決定・サポートがあります。これらは社会全史で獲得されてきた基本権と完全に一致しています。パーソナルアシスタンス制度が、基本権として保障されることの大切さを、懇談内容から振り返ります。

(8) パーソナルアシスタンスの構成要件の一つに「個別化給付」があります。これはダイレクトペイメントのことですが、本人に費用が直接給付される様式だけを意味しません。給付金は、個別のニーズアセスメントと個別の生活環境に依拠しており、またアシスタントの人権が確保された労働条件や待遇のもとで働くことができる額でないといけません。十分なケアの量と額が保障されていることが必要です。重要なことは、障害者の基本権保障はアシスタントの基本権保障と密接に関連していることです。

(9) パーソナルアシスタンスの構成要件の二つめは「サービス管理の自律性」です。これは、誰によって・どのように・いつ・どこで・どのようにサービス提供されるのかを決めることができることを指します。個別化給付されている障害者一人ひとりの個別ニーズは独自性あるものとして完全に尊重されます。サービス提供事業所のやるべきことは障害者一人ひとりの総意によって導かれるものであることを気づかせます。障害者同士を対等互恵の関係性に立ち返ることを容易にします。真に必要なサービスは何であるかが議論されます。

(10)パーソナルアシスタンスの構成要件の三つめは「一対一の関係性に基づく」です。これは、アシスタントは共有しないことを意味します。障害者一人ひとりに身体・個人ニーズ・ケアの量・ケアの質・志向があり、けっして他のものと同じはありません。政府にとっては他のものと同じとみなすことで区分による給付金の額がきめやすくなります。アシスタントを共有しないことで、代替のきかない、個別のケアの量、それに見合う額が保障されることになるのです。この点でアシスタントの募集・採用・育成・管理が保障される理由は明らかです。

(11)パーソナルアシスタンス構成要件の四つめは「サービス管理の自由選択」です。どの程度みずから管理するかを自由に選択できるということです。障害者一人ひとり、給付金を直接受取るか、事業所が間接的に受取るか、アシスタントの募集・採用・育成・管理、勤務調整、給与の計算・支払い、税の控除・保険の支払い、書類提出など多岐にわたる内容の選択決定、権限の委託が保障されます。本当に大切なことは、障害者一人ひとりの自己選択と自己決定は多様な形態と重層的な仕組みが必要であることを理解してそれを保障させることにあります。


4. 気付いたこと

(12)ブリュッセルで行われた会議の最終日、私はラツカさんと話をしていました。彼は、私に「パーソナルアシスタンスの要件が守られているか気にしています」と述べていて、パーソナルアシスタンス制度が形骸化され、偽の代替物が本物だとされることに懸念を持っていました。

(13)私自身もブリュッセルの会議・ストックホルムで感じたのは、各国のパーソナルアシスタンス制度の後退もしくは存続の危機でした。2000年代前半に起きた欧州金融危機と緊縮政策による社会保障費のカットが問題を深刻にさせています。OECDが2014年に発表したレポートでは「大半のOECD諸国では、過去三十年間で富裕層と貧困層の格差が最大になった」と述べています。私は、日本の障害福祉サービスが、本質的な問題を持っていて、欧州の当事者主権/主体のパーソナルアシスタントとは相当距離があると思っていました。しかし日本でも同じように、貧困と格差は広がっていて、社会保障費のカットは同じように存在しているではありませんか。

(14)いまラツカさんの言葉は、私のなかで以前とは異なる響きをもって受け取ることができます。ある国で認められていて、よその国で認められないのは人権ではありません。障害者権利条約を批准した国々ではこれが規範となり、この規範にのっとって法制度を策定しているかどうかを監視することが重要です。とりわけ、私たちは障害者権利条約19条、一般的意見5号、一般的意見7号を学び、ともに行動し、自治体や政府を動かしていく必要があります。障害当事者が参画して政策決定者とともに共同するときCo-Productionの手法が参考になります。

(15)ありがとうございます。